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“オンプレ回帰”の動き顕在化とその背景

クラウドの利用が加速する中にあって、一度はクラウドに切り出した社内システムをオンプレミスに戻す、いわゆる“オンプレ回帰”の動きが顕在化していると言われています。

 

昨年には、楽天グループが、オンプレ回帰を決断しました。プライベートクラウド「One Cloud」の環境を拡充し、グループ企業の各種事業が用いるIT基盤の統合を進めています。現在、パブリッククラウドで稼働させている多数のシステムは、原則としてOne Cloudへのシフト。グループ全社でIT基盤のプライベートクラウドへの集約を進めてコスト効率を高めるほか、IT基盤のノウハウを蓄積し安定稼働や、セキュリティ強化につなげるとしています。

 

プライベートクラウドは、新たに参入を計画する法人向けITサービスの基盤にも活用されます。計画するのは本人確認に使うeKYCやWebサイトのアクセス分析、電子決済の機能などです。いずれもグループの事業で使うために開発した技術で、従量制のパブリッククラウドサービスとして外販する方向で準備を進めています。

 

クラウドファーストが叫ばれる中、オンプレミスでサーバーを導入する機会は多くの企業で確実に減っていると言われています。ただし、サーバー市場に目を転じれば、いまだ動きは堅調。一見すると矛盾するようですが、この背景にはいったい何があるのでしょうか。

 

オンプレ回帰の背景

 

サーバー市場は22年度も対前年比1~2割増と好調に推移している様子です。

 

サーバー仮想化が流行り始めた2000年代前半も、サーバー統合を通じて、サーバーは売れなくなると言われました。しかし、現実はそうなることはなく、仮想化によりサーバー調達の容易性が増し、逆に各種システム導入が活発化したことで、より多くのサーバーが求められるようになりました。

 

現在、DXを追い風にIT投資も活発化し、従来なかったシステム活用も広がっています。クラウドが必要とするサーバーリソースの急増という状況からも、サーバー市場の拡大はむしろ自然と言えます。

 

一方で、一般企業のオンプレでのサーバー利用がここにきて盛り返している背景には、実際に使ってみて、クラウドに対する誤解が解けていることがあります。振り返ればクラウドは、極めて低廉なコストでのリソース利用や、運用の外部への切り出しによる作業負荷の軽減で大きな期待を集めました。

 

しかし、現実は、コスト面でクラウドの特性を理解しないまま利用を進めた結果、予想外の高額な料金が請求されるケースも少なくありません。

 

また、運用面でも、ハードのお守りこそなくなりましたがシステム自体の運用は依然として残ります。クラウドの管理作業にはオンプレとは異なる知見が必要で、多くの企業がオンプレとクラウドの双方にシステムを抱えている現状では、二重管理がどうしても発生してしまいます。これによる負担は多忙なIT部門にとって決して小さくありません。

 

セキュリティの問題もあります。機密性が高いデータを扱う既存のレガシーシステムはパブリッククラウド上で運用できないといった理由でオンプレミスでの運用を廃止できず、その結果としてIT運用が複雑化することによる運用管理負荷が増加するといった問題が生じています。

 

これらの“現実”への理解が進んだことで、一度はクラウドに切り出したシステムについて、「合わない」と判断したものから順次オンプレに戻し、クラウドと併存させるスタイルへの揺り戻しが起こっています。

 

現在進行形でオンプレ回帰は進みます。ただ、クラウドを経験した企業はその良さも知っています。そうした企業が目指すべきIT基盤は、従来型のオンプレでよいのでしょうか。

 

現状のオンプレ回帰のアプローチは2通り

 

現状のオンプレ回帰のアプローチは2通りあります。サーバー関連はクラウドに残しつつ、DXで鍵となるデータのみをオンプレに戻すやり方が1つ。システム全体をオンプレに戻すのがもう1つです。問題となるのは後者の方法です。

 

コスト面だけを重視したSPOF(単一障害点)が存在する設計の3Tier型(サーバー群と共有ストレージをネットワークファブリックで接続するシステム形態)でないことだけは明白。ただし、全ての提案において3Tier型がよくないと言っているわけではなく、適切な課題への対策などを考慮した上でも、大規模になるほど複雑さが増し、見直しの都度、サーバー、ストレージ、ネットワークの担当者による議論で長いリードタイムが生じたり、ハードの世代などの問題で高額なリプレースコストが生じたりといった状況には誰も戻りたくはないと考えています。

 

目指すべきは、やはりクラウドライクな仮想化基盤の採用です。その観点から今、注目を集めているのが、クラウドライクなシステム基盤を実現するHCI(Hyper Converged Infrastructure)。このHCIが評価を大きく高めているようです。事前に検証済みのサーバーとストレージ、ネットワークの機能をソフトウェアで実装して1つの筐体に収め、仮想化ミドルウェアと一体で提供されるHCIは、IT基盤の構成を格段にシンプル化します。専門的な知識が乏しくともノードの追加で簡単にリソースを拡充でき、クラウドに近い拡張性を実現します。

 

大規模になるにつれ複雑さを増す3Tier構成に対し、シンプルな構成を保てるHCIは、今後も注目を集めることになりそうです。

TOPICS & NEWS

2023.07.25

アイルランド政府のデータセンター開発モラトリアムに、Googleが反発

アイルランド政府、データセンター開発に制限

 

アイルランドの公益事業規制委員会(CRU)が、ダブリン大都市圏での新しいデータセンター開発に事実上のモラトリアムを課し、影響を制限する決定を下しました。

 

アイルランドの国営送電事業者EirGridは、それを受けて、ケースバイケースでグリッドへの接続のための新しいアプリケーションのみを検討すると述べました。伝えられるところによると、制限は2028年まで続く可能性があります。

 

アイルランド政府産業開発庁(IDA)のマーティン・シャナハン最高経営責任者(CEO)は最近、新しいデータセンターは「現時点では、ダブリンと東海岸で発生する可能性は低い」と述べています。

 

Googleはこのようなアイルランドの規制当局に対し、同国のデータセンター開発にモラトリアムを強制しないよう求めています。

 

同社は公益事業規制委員会(CRU)への提出書類で、検索およびクラウド会社は、データセンター開発のモラトリアムは「絶対に」回避する必要があると述べました。

 

アイリッシュ・タイムズ紙が情報公開請求により最初に報じたところによると、Googleはこのような禁止措置はアイルランドのデジタル経済としての野心について「誤ったシグナル」を送ることになり、同国のインフラへのさらなる投資を「不可能」にすると付け加えています。

 

提出書類の中でGoogle は、アイルランドのネットワークに既存の電力容量がある場所についてより透明性を求めるとともに、データセンターの電力使用量の伸びを予測するEirGridの予測について、より明確でオープンなものにする必要があるとしています。

 

高まるクラウドコンピューティングの需要、Googleの提案

 

2012年にアイルランドで最初のデータセンターを立ち上げた Googleは、最終的に必要とする以上の容量を予約したり、その容量に成長するのが遅すぎるデータセンター事業者に対する新しい料金体系を提案しました。

 

「最大予約容量に向かって需要が増加していない消費者は、毎年増加していることを実証している消費者よりも多く請求されるように、送電料金制度を設計することができる」と述べています。

 

EirGridと政治家は以前、データセンターの開発をアイルランド西部(ダブリンの制約のある地域から離れ、再生可能エネルギー源に近い場所)に移すことを提案しましたが、Google はこれが実現可能な解決策ではないと指摘しています。

 

「ダブリンでのクラウドコンピューティングの需要は高まっています。多くのクラウドサービスはユーザーの近くにあるデータセンターで提供する必要があり、ダブリンから遠く離れたデータセンターでは、顧客の必要に応じてこれらのサービスを提供することはできません。」

 

AWSの別の提出書類では、アイルランドは過去に供給問題に対処する機会を逸してきたと述べています。

 

「これまでの10年間、補強工事を行い、成長と投資に備えた送電網を整備し、より断続的な資源の統合に備えた送電網を整備する機会があった」と述べています。

 

社会民主党とPeople Before Profitの両党は、過去12ヶ月間、将来のデータセンタープロジェクトの全国的なモラトリアムを求めてきました。PBPの法案は、データセンター、液体天然ガスプラント、新しい化石燃料関連のインフラを絶対禁止とするものでした。

 

ダブリンでは先月、南ダブリン郡議会(SDCC)が新しい開発計画案の一環として、同郡での今後のデータセンター建設を阻止することを決議しています。

 

では、アイルランド政府のデータセンター開発モラトリアムには、どのような背景があるのでしょうか。

 

アイルランド政府、データセンター開発モラトリアムの背景

 

アイルランド政府による、排出量と再生可能エネルギーの目標の達成が背景にあります。

 

EirGridによると、データセンターのエネルギー使用量は、2030年までに9TWh増加すると予測されており、2030年のアイルランドの送電網の供給量の23%から31%の範囲で予測されています。これは、政府が自然エネルギーの割合を増やすことで、排出量を60〜80%削減したいと考えている時期にあたります。同時に政府は暖房や輸送を電気に移行することで脱炭素化を図りたいと考えており、送電網の需要をさらに高めています。

 

アイリッシュ・タイムズ紙によるとEirGrid社はさらに1.8GWのデータセンターをグリッドに接続することに合意しており、現在のピーク時の需要は約5GWで、さらに2GWのアプリケーションが準備されているとのことです。

 

2018年に発表された「アイルランドの企業戦略におけるデータセンターの役割に関する政府声明2018」 (Government Statement on the Role of Data Centres in Ireland’s Enterprise Strategy 2018)では、国の経済パフォーマンスにおいてデータセンターに積極的な役割を与えていましたが、今後は「セクターごとの排出量の上限や再生可能エネルギーの目標、継続的な供給の安全性に関する懸念、現在必要とされている需要の柔軟性対策との整合性を確保するため」に見直されることになりました。「また、さらなる規制の強化も検討されます」と報じられています。

 

功を奏するのか裏目に出るのか

 

世界的にも需要が高まるデータセンター開発にモラトリアムを課すアイルランド政府。Googleからの反発を受けながらもモラトリアムを継続する様子。この決断が功を奏するのか、裏目に出るのか。動向を見守っていきます。

ESG + DC

2023.07.05