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海洋から未来のデータインフラを創る

発電船の写真(引用:https://karpowership.com/

 

― 商船三井・日本郵船が描く洋上データセンターの可能性 ―

  

 世界的に進むデジタル化、そして生成AIの普及に伴い、データ処理需要は年々拡大しています。その一方で、陸上データセンターには「電力の制約」「冷却効率」「土地不足」といった課題が存在します。こうした背景から、海上という新たなフィールドを活用したデータインフラの取り組みが注目を集めています。

  

商船三井:発電船と連携した洋上データセンター

  

商船三井(MOL)は、英発電船会社と基本合意を締結し、「発電船から電力を供給する洋上データセンター」の実現に向けた取り組みをスタートしました。中古船を改造してデータセンターを搭載し、発電船から安定的に電力を供給する仕組みです。2027年の実用化をめざし、2070MW規模の運用を計画しています。

  

このプロジェクトの特長は、地上の送電網や用地に依存せずに設置できる柔軟性にあります。また、海水を活用した効率的な冷却や、移動可能な浮体構造を活かし、需要に応じて設置場所を変更できる点も魅力です。持続可能なITインフラの新しい形として、大きな注目を集めています。 

  

日本郵船とNTT:再エネ100%をめざす洋上グリーンDC

  

一方、日本郵船(NYK)はNTTファシリティーズやユーラスエナジーなどと連携し、横浜市と共同で「洋上浮体型グリーンデータセンター」の実証実験を開始しました。

横浜・大さん橋ふ頭に設置した浮体式施設に太陽光発電設備と蓄電池を導入し、再生可能エネルギー100%での運用を検証しています。将来的には洋上風力発電との直接連携も視野に入れ、環境負荷の少ない次世代型データセンターのモデルケースをつくる計画です。

この取り組みでは、実際の海洋環境における耐塩害性や安定稼働性、エネルギー効率を検証し、都市部の港湾から洋上へと拡張していく可能性を探っています。

  

広がる洋上データセンターの未来

  

商船三井の「発電船型」と、日本郵船・NTTの「再エネ型」。両者はアプローチこそ異なりますが、共通するのは 陸上インフラに依存しない持続可能なデータセンターの実現 です。

  • 発電船を活用することで大規模化をめざす方式
  • 再生可能エネルギーでゼロエミッションをめざす方式

いずれも、将来的には国際通信網や海底ケーブルとの連携を視野に入れ、グローバル規模のデジタルインフラ戦略に寄与する可能性を秘めています。

  

今後は、技術の実証に加え、通信・電力・海運といった異分野の連携や制度整備も重要な要素となります。洋上という新しい領域に挑むこれらの取り組みは、日本発のデータセンターモデルとして世界から注目されることでしょう。

TOPICS & NEWS

2025.09.30

政府が動き出す「GX戦略地域」構想 ― データセンター集積地を全国から公募開始

政府は、データセンター(DC)の集積に適した候補地を全国の自治体から公募する方針を示し、826日から募集を開始しました。GX(グリーントランスフォーメーション)を推進する新制度「GX戦略地域」を創設し、データセンターや脱炭素産業を集中させる拠点づくりを進めます。選定された地域には、GX経済移行債を活用した補助金や土地利用に関する規制緩和といった優遇策が適用される見通しです。

 

政府の狙いは、脱炭素電源を基盤に、持続可能かつ強靭なデジタル・産業基盤を国内に構築することにあります。

  

100万kW級への拡張を求める電力要件

  

 今回の公募において最も注目される条件のひとつが「電力供給規模」です。政府は、候補地において電力系統の接続可能規模を将来的に100万キロワット(1000メガワット)級へと拡張できることを要件としています。国内のDC需要が急拡大するなか、単に再生可能エネルギーを確保するだけでなく、大規模な増強に耐えうる電力インフラを前提とした集積地づくりが求められているのです。

 

これにより、従来は都市圏に集中していたDC群を地方に分散させつつ、電力逼迫リスクに強い全国的なインフラ網を構築する狙いがあります。

  

地方分散と産業転換を見据えた公募

  

公募対象はデータセンターにとどまりません。石油化学コンビナートの跡地再生や、再生可能エネルギーを活用した産業団地造成も視野に入れています。縮小傾向にある従来型産業拠点を、GXの流れに沿った研究・開発や再エネ拠点へと転換し、地域経済の新たな成長の柱とすることが期待されています。

 

また、30ヘクタール以上の安定した用地確保や通信インフラの整備といった要件も課され、地方自治体と企業の連携による包括的な提案が求められます。

  

新たな集積地を狙う思惑

  

国内のDCは依然として大都市圏に9割が集中しています。災害リスクや電力需給逼迫の懸念を踏まえれば、地方分散は喫緊の課題です。政府が提示する「100kW級」の要件は、単なる分散政策にとどまらず、電力インフラを前提とした産業クラスターの新拠点を生み出す強い意思の表れとも受け取れます。

 

言い換えれば、この政策の裏側には「既存の都市圏集積を補完する新たな成長拠点を地方に創出する」という明確な思惑が透けて見えるのです。GX戦略地域の指定をめぐっては、全国の自治体による競争が本格化することが期待されます。

TOPICS & NEWS

2025.09.16