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NTTが主導する次世代インフラ構想「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」の実用化に向けた動きが加速しています。2025年6月、NTTはIOWN構想の中核を担う「All-Photonics Network(APN)」の実証実験が成功したと発表。光を活用した新たなネットワーク技術により、既存インターネットの限界を超える低遅延・大容量・低消費電力の通信が実現可能となります。
今回の実験では、通信遅延を従来の1/200以下に抑えつつ、エネルギー効率も劇的に改善されました。これは、AIや自動運転、遠隔医療といった高度なリアルタイム処理が求められる社会インフラにとって、極めて重要な技術的ブレークスルーです。NTTは2030年までの本格実用化を目指しており、今後、企業・自治体・研究機関との連携を通じた社会実装が加速する見通しです。
データセンター戦略に見るIOWNとの相乗効果
IOWNの実用化と並行して、NTTはデータセンター事業への投資を強化しています。NTTデータやNTTコミュニケーションズは、国内外で大規模なデータセンターの新設や拡張を進めており、その基盤にはIOWN技術の導入が期待されています。
特に注目すべきは、APNとコンピューティングリソースを組み合わせた「デジタルツインコンピューティング(DTC)」との連動です。これは、物理空間のあらゆる情報をリアルタイムで仮想空間に再現し、未来予測や最適化に活用する技術であり、膨大なデータ処理が求められるデータセンターとの親和性が高いのです。NTTは、これらの先進技術を支える次世代データセンターの構築を通じて、エネルギー効率と計算性能の両立を目指します。
また、IOWNに対応したインフラは、単なる国内展開にとどまらず、グローバル展開も視野に入れています。NTTはアジアや欧米を含む海外市場にも積極的に進出し、世界規模でのデジタル基盤構築を進めています。すでにアメリカやインド、ヨーロッパなどに拠点を構え、IOWN対応のデータセンター運営に乗り出しており、日本発の次世代技術が世界のデジタルエコシステムに与える影響は非常に大きいといえるでしょう。
世界に広がる「日本発」のインフラ革命
NTTが目指すIOWN構想は、単なるネットワーク刷新にとどまらず、社会全体の構造そのものを変革する可能性を秘めています。AI、量子コンピューティング、遠隔操作、スマートシティ――あらゆる領域で高速・低遅延・省電力の通信基盤は必要不可欠です。IOWNとそれを支えるデータセンターが融合することで、次世代のデジタル社会の実現に一歩近づきます。
NTTの挑戦は今、技術検証フェーズを超え、実装と展開の段階へと移行しつつあります。日本発の最先端技術が世界のデジタルインフラとして広がっていく未来に、大きな期待が寄せられています。
2025.07.24
近年、データセンター(DC)事業をめぐって、「地方分散化」が注目を集めています。政府や東京電力は、電力とデータ通信を連携させる「ワットビット連携」などを掲げ、DCの都市集中からの脱却を促そうとしています。背景には、地震や災害リスクの回避、地域経済の活性化といった目的がありますが、実は理想とはやや異なります。
ハイパースケーラーの経済合理性という壁
最大の壁となっているのは、外資系ハイパースケーラーの動向。そもそも、現在のDC需要をけん引しているのは、GoogleやAmazonといった海外の大手クラウド事業者たちです。彼らは経済合理性を最優先に立地を判断しており、「DCや通信網の集積地に進出することこそメリットがある」という認識が強くあります。そのため、地方への分散には消極的。
また、ワットビット連携を支えるには、IX(インターネットエクスチェンジ)や海底ケーブルの陸揚げ地といった、インターネットインフラの整備が不可欠です。
ある政府関係者も「経済合理性に基づいたままでは分散は進まない」と語るように、地方分散化には単なるインフラ整備を超えた戦略が求められています。
カギを握るのは政府の戦略と国内事業者への支援
地方へのDC立地を進める上で、比較的積極的なのが日系のデータセンター事業者です。日本企業は社会的使命や国内市場の特性を踏まえ、地域への展開に意欲を見せることが多々あります。しかし、たとえ補助金や助成制度を活用して地方DCを立ち上げたとしても、運営にかかるランニングコストを賄うだけの顧客獲得が見込めなければ、継続的な事業運営ができません。海外の大手クラウド事業者は地方DCを利用しませんので、日経のデータセンター事業者が地方でのDC新設を意思決定することは、極めて難しいのです。
このような現状を踏まえると、今後のカギは「政府のリーダーシップ」と「日系事業者への支援強化」にあると言えます。経済合理性のみに任せた市場原理では、分散化は進みません。
むしろ、政府がある程度、戦略的に立地を指定するなど、強い意思をもって誘導する必要があるのではないでしょうか。また、単発的な補助にとどまらず、長期にわたる運営支援や税制優遇など、実効性のある制度設計も欠かせません。地方DCを政府が大規模に利用することも有効でしょう。
果たして政府は、経済の論理を超えてまで地方分散化を進める覚悟があるのでしょうか。そして、日系企業はその流れにどう応えるのでしょう。データセンターを巡る地域戦略は、これからが正念場を迎えています。
2025.07.21