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かつて日本の高度経済成長を支えた製鉄所や電機メーカーの大型工場が、いまデジタル時代の要請に応じて、次々とデータセンター(DC)へと生まれ変わりつつあります。代表的な例として注目されているのが、三菱商事とJFEホールディングスによる川崎市でのDCプロジェクトです。
かつての製造拠点がAI時代の心臓部へ
2023年に高炉の操業を停止したJFE東日本製鉄所京浜地区(川崎市臨海部)の跡地に、両社は1000億~1500億円を投じて大規模なデータセンターを建設する計画を進めています。2025年度中に事業化調査を行い、早ければ2030年度の稼働開始を予定。実現すれば、三菱商事グループが運営するDCとして最大規模となり、消費電力は6万〜9万キロワットに達すると見込まれています。
この計画は、製造業から情報産業への象徴的な地殻変動を映し出しています。川崎の製鉄所は、日本鋼管時代から約90年にわたり日本の鉄鋼業を支えた重要拠点でした。しかし、グローバル競争の激化により高炉の操業は停止。その跡地が、今やAI・クラウド需要に応える最先端の情報基盤へと変貌しようとしています。
とりわけ、生成AIの普及により、大容量データの高速処理が可能なインフラへのニーズは急拡大。米エヌビディア製の高性能半導体を用いたサーバーの需要も高まっており、企業は新たなDC立地を求めています。広大な敷地と強靭な電力インフラを備えた旧工場跡地は、こうした要件に理想的な条件を提供します。
堺、川崎、全国へ。広がる工場跡地の再定義
同様の動きは他地域でも顕在化しています。大阪府堺市では、シャープの液晶パネル製造工場として知られた堺工場が、通信大手のソフトバンクやKDDIの手によってDCへと転用される計画が進行中。かつての「モノづくり拠点」は、いまや「情報処理拠点」へと進化を遂げようとしています。
調査会社・富士キメラ総研の予測によれば、日本国内のDC市場は2029年に5兆4036億円に達し、2024年比で34%増加する見込みです。これに伴い、従来のオフィスビルや郊外施設だけでなく、都市近郊の工業地帯がDC立地として注目を集めています。
産業用地の再活用は、不動産開発の視点のみならず、エネルギー政策や地域活性化にも関わるテーマとなっています。とくにDCは大量の電力を消費するため、再生可能エネルギーの導入や地産地消型の電力供給体制の構築が今後の鍵となりそうです。
かつて日本経済を牽引した工場群が、デジタル社会の基盤インフラとして再び脚光を浴びています。重厚長大産業から情報産業へ。時代のニーズと技術の進化が、都市の景観と土地の価値をも根本から塗り替えようとしています。
2025.05.26