
TOPICS & NEWS
政府は今、エネルギーとデジタルの融合「ワットビット連携」の重要性を明確に打ち出しています。2024年の骨太の方針でも、ワット(電力)とビット(デジタルデータ)を一体的に活用し、地域課題の解決と経済成長を同時に実現する仕組みとして、この連携を中核に据える方針が示されました。
その推進役として期待されているのが、次世代分散型ICT基盤「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」です。IOWNは、ネットワークの自律分散性を活かし、エッジ側での処理能力を向上させることで、大量の電力消費やデータ処理を特定の都市部データセンターに集中させず、地方にも分散できる構造を持ちます。これにより、都市部一極集中の限界を超え、地域社会にデジタルインフラを根付かせることが可能となります。
「地方でこそ活きる」ワットビット構想と電力供給の合理性
ワットビット連携の本質は、「地方のための構想」です。東京や大阪などの都市圏で行うべき施策ではありません。人口減少や老朽化インフラといった地域特有の課題にこそ、このエネルギー×デジタルのアプローチが生きるということです。今やネットワーク技術は、光回線や5G/ローカル5G、さらには衛星インターネットなどの発展によって、地理的なハンディを大きく解消しています。地方でも高度なデジタル処理を行える環境が整いつつあるのです。
また、電力供給の観点からも、分散配置されたデータ処理施設の方が、電力会社にとっても需給調整や再エネ導入の柔軟性を高めるという利点があります。特に太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用した「地産地消型デジタル基盤」は、災害対応力や自治体のレジリエンス向上にもつながります。
GAFAMは乗ってくるか? 分散型インフラの次なる課題
ただし、課題がないわけではありません。大量のデータを扱うGAFAMなどのグローバルIT企業が、地方分散型のインフラを選好するかどうかは依然として未知数。エッジ分散や中小規模施設に対する信頼性、セキュリティ、コストパフォーマンスなど、多くの評価軸が存在します。彼らが納得する運用モデルを構築できるかどうかが、ワットビット連携の全国展開を左右する要となるでしょう。
今後は、国の制度設計や支援策に加え、地方自治体や企業、電力会社、通信事業者など多様なプレイヤーが連携し、持続可能かつ実用的なモデルを構築していくことが求められます。ワットビット連携は単なるテクノロジーの話ではなく、「地域の未来」をどう設計するかという国家的プロジェクトということです。
2025.06.24
東京電力パワーグリッド株式会社(東電PG)は、デジタルインフラ事業の推進に向けて「TEPCOデジタルインフラ株式会社」を設立しました。背景にあるのは、データ需要の爆発的な増加と、生成AIをはじめとした高度なデジタル技術の普及に伴う、電力インフラの再定義。もはや電力会社は単なるエネルギー供給者ではなく、データ社会の根幹を担うパートナーとして進化しつつあるのです。
その象徴ともいえる取り組みが、NTTデータグループ・NTTグローバルデータセンターと東電PGによる千葉県印西白井エリアでのデータセンター共同開発。2023年末に発表されたこの計画では、特別目的会社(SPC)を2023年度中に設立し、2026年下半期のサービス開始を目指しています。第1弾として、IT機器向け電力容量50MWという大規模なデータセンターの建設が計画されており、今後も首都圏を中心に共同開発が順次検討されています。
電力会社の知見とICT企業の技術が融合する時代へ
このプロジェクトの意義は、東電PGが有する広大な設備資産と電力運用のノウハウ、そしてNTTグループが持つ先進的なICT技術とグローバルなデータセンター運用能力が融合し、より高度でサステナブルなデータセンターのモデルを構築しようとしている点にあります。特に脱炭素や分散電源といった社会課題にも対応しうる設計思想は、次世代型インフラの方向性を示唆しています。
同様の動きは他の電力会社にも見られます。東北電力はコンテナ型の移動式データセンターを活用した生成AI向け新ビジネスの展開を始めました。この取り組みでは、GPUを搭載したサーバーを数か月で稼働可能とし、スピード重視で市場参入を果たした点が特徴です。若手や中途人材の発案を基にスタートしたこのプロジェクトは、冷涼な東北の気候を活かした電力消費の効率化、そして将来的な大規模データセンター誘致の布石ともなります。
データ社会の基盤としての“電力”の存在感
こうした背景には、電力需要の構造変化があります。データセンターや半導体工場の新設・拡張により、2034年には電力最大需要が715万キロワットに達すると予測されており、今後の日本における電力供給体制の再設計が喫緊の課題となっています。安定供給、再エネ対応、ベースロード電源の確保といった課題を同時に解決するには、電力とデジタルの一体的な取り組みが欠かせません。
このように、電力会社がデジタルインフラに深く関与し始めた現在、データセンターと電力は切っても切り離せない存在となりました。高密度化・常時稼働が前提のデジタル基盤には、大容量かつ安定した電力が不可欠であり、一方で電力会社にとっては、脱炭素や新たな収益源を模索する上で、データセンターは最も現実的な成長ドライバーです。
つまり今、電力会社とデータセンター事業者は、単なる供給者と利用者という関係を超えて、共に社会基盤を築く「パートナー」へと関係性を変えつつあるということ。安定供給と持続可能性を両立する未来を描くには、両者がタッグを組んで共に挑戦していくことが必要不可欠なのです。
2025.06.17
入札で注目されたつくば初のハイパースケールデータセンターで、DCの大型化が本格化しています。主導するのは、豪グッドマン・グループ。2022年、つくば市が産業振興の一環として実施した公募型プロポーザルに応じ、同社は約45ヘクタールの用地取得に成功しました。研究学園都市として整備されてきたこの地域は、通信・電力・水道といったインフラがすでに整っており、首都圏からのアクセス性も高い場所。加えて、地域としての開発余地が大きく、国内では希少なハイパースケールDCの受け入れ地としての条件を備えています。
1GW規模のハイパースケールDC開発、その全容とは
2024年1月、グッドマンは「グッドマンつくばデータセンターキャンパス」の正式発表に踏み切りました。構想されているのは、最大で1GW(1000MW)の電力供給能力をもつキャンパス型DCであり、国内でも過去に例のない規模です。第1期フェーズとして、50MW規模の建屋が建設中で、2026年の完成を予定しています。すでに一部顧客との基本合意も結ばれており、市場ニーズとの整合も取れている点が特徴です。なお、グッドマンは千葉・印西市でも300MW超のデータセンター群を展開しており、つくばはそれに次ぐフラッグシップ拠点となる見込みです。
グローバル戦略と環境対応が支える次世代インフラ
グッドマンのデータセンター戦略はグローバルに展開されており、香港・ロサンゼルス・シドニー・メルボルンなど主要都市でも開発が進んでいます。2025年2月には、DC開発に向けて約40億ドル(約6000億円)もの資金を調達。5~7年で最大800億ドル規模の開発機会を見込み、総電力容量4GWを確保済みだということです。
同社の取り組みは、環境対応の面でも先進的です。建築物の低炭素設計や再生可能エネルギーの積極的導入を通じて、ESG要件への対応を強化。これは、サステナビリティを重視するグローバルクラウド企業やAI事業者にとって、大きなアピールポイントとなります。
メガDC時代における日本の立ち位置を再定義するプロジェクト
このように、つくばの1GW級データセンター開発は、国内DC業界における新たな局面を示す象徴的なプロジェクトであります。公共と民間の協調によって実現する本計画は、地域の価値を高めると同時に、メガDC時代における日本のポジションを再定義する取り組みとして、大きな注目を集めています。
2025.05.27
かつて日本の高度経済成長を支えた製鉄所や電機メーカーの大型工場が、いまデジタル時代の要請に応じて、次々とデータセンター(DC)へと生まれ変わりつつあります。代表的な例として注目されているのが、三菱商事とJFEホールディングスによる川崎市でのDCプロジェクトです。
かつての製造拠点がAI時代の心臓部へ
2023年に高炉の操業を停止したJFE東日本製鉄所京浜地区(川崎市臨海部)の跡地に、両社は1000億~1500億円を投じて大規模なデータセンターを建設する計画を進めています。2025年度中に事業化調査を行い、早ければ2030年度の稼働開始を予定。実現すれば、三菱商事グループが運営するDCとして最大規模となり、消費電力は6万〜9万キロワットに達すると見込まれています。
この計画は、製造業から情報産業への象徴的な地殻変動を映し出しています。川崎の製鉄所は、日本鋼管時代から約90年にわたり日本の鉄鋼業を支えた重要拠点でした。しかし、グローバル競争の激化により高炉の操業は停止。その跡地が、今やAI・クラウド需要に応える最先端の情報基盤へと変貌しようとしています。
とりわけ、生成AIの普及により、大容量データの高速処理が可能なインフラへのニーズは急拡大。米エヌビディア製の高性能半導体を用いたサーバーの需要も高まっており、企業は新たなDC立地を求めています。広大な敷地と強靭な電力インフラを備えた旧工場跡地は、こうした要件に理想的な条件を提供します。
堺、川崎、全国へ。広がる工場跡地の再定義
同様の動きは他地域でも顕在化しています。大阪府堺市では、シャープの液晶パネル製造工場として知られた堺工場が、通信大手のソフトバンクやKDDIの手によってDCへと転用される計画が進行中。かつての「モノづくり拠点」は、いまや「情報処理拠点」へと進化を遂げようとしています。
調査会社・富士キメラ総研の予測によれば、日本国内のDC市場は2029年に5兆4036億円に達し、2024年比で34%増加する見込みです。これに伴い、従来のオフィスビルや郊外施設だけでなく、都市近郊の工業地帯がDC立地として注目を集めています。
産業用地の再活用は、不動産開発の視点のみならず、エネルギー政策や地域活性化にも関わるテーマとなっています。とくにDCは大量の電力を消費するため、再生可能エネルギーの導入や地産地消型の電力供給体制の構築が今後の鍵となりそうです。
かつて日本経済を牽引した工場群が、デジタル社会の基盤インフラとして再び脚光を浴びています。重厚長大産業から情報産業へ。時代のニーズと技術の進化が、都市の景観と土地の価値をも根本から塗り替えようとしています。
2025.05.26
ソフトバンクグループとOpenAIが進める大規模AIインフラ構築プロジェクト「Stargate Project」。その国内展開の中心として注目されているのが、シャープが保有していた堺市の旧液晶パネル工場の再活用です。ソフトバンクはこの工場の一部を約1000億円で取得し、最先端のAIデータセンターに転用する計画を進めています。
この施設は、東京の既存拠点、北海道で建設中の施設に続く3拠点目であり、電力容量150メガワットという国内最大級の規模を誇ります。2026年の稼働を目指し、将来的には250メガワットまで拡張する方針が示されています。堺の立地やインフラ条件も整っており、長期的なデータセンター運営の安定性が期待されているところです。
SB OpenAI Japanによる国産AIの開発と普及
プロジェクトの中核を担うのが、2025年2月にソフトバンクとOpenAIが共同設立した「SB OpenAI Japan」。この合弁会社では、日本語に特化した大規模言語モデル(LLM)の開発や、企業向けの生成AIサービス「クリスタル・インテリジェンス」の提供を目指しています。
堺のデータセンターでは、OpenAIが提供する基盤モデルをもとに、GPUを活用したAIエージェントの運用が予定されています。人事やマーケティングといった企業の業務に特化し、それぞれのニーズに応じたAIソリューションをカスタマイズ提供していくとしています。
こうした取り組みによって、日本企業のデジタル変革が一気に加速する可能性があります。
巨額投資と産業融合による未来創出
ソフトバンクはこのAIインフラ構築において、GPU10万基を必要とする規模の開発を計画しており、単純計算で1兆円に迫る巨額投資となる可能性があります。GPUの供給は米NVIDIAやStargate Projectからも行われる見通しです。
ソフトバンク宮川社長は「堺をAIと既存産業の融合拠点とし、新たなビジネスモデルや課題解決の実験場とする」と語っており、単なるデータセンターとしてだけでなく、国内外におけるAI産業の進化を牽引する起点となることが期待されています。
加えて、産業全体の生産性向上や人手不足への対策としても、極めて重要なステップとなりそうです。
2025.04.30
米NVIDIAは2025年3月、年次開発者会議「GTC」を開催し、AIの進化が「学習」から「推論」へとシフトしている現状を背景に、推論処理に特化した新ソフトウェア「Dynamo」を発表しました。
これまで学習向け技術に強みを持っていた同社は、推論においても自社のハードウェアとソフトウェアが不可欠であると強調。CEOのジェンスン・ファン氏は、推論処理の高速化がAIサービスの質を左右する鍵であると訴えました。
新ソフトウェア「Dynamo」の特徴
Dynamoはオープンソースで提供され、複数のGPUを効率的に連携させることで推論処理を高速化します。最新のGPUアーキテクチャ「Blackwell」と組み合わせることで、中国のAI企業DeepSeekのAIモデル「R1」の処理速度を従来比30倍にまで引き上げることが可能だということです。
中核的な特徴は「細分化サービング」と呼ばれる手法で、推論処理を「プリフィル」と「デコード」の2フェーズに分離して別々のGPUに割り当て、処理効率を大幅に改善します。
また、「KVキャッシュ」と呼ばれる技術を活用し、過去のトークン情報を記憶・再利用することで計算量を削減。Dynamoに搭載された「KVキャッシュマネージャ」により、GPUメモリの限界を超えないように効率的なキャッシュ運用が可能です。
トレードオフ問題とハードウェアの進化
ファンCEOは基調講演で、推論における「1秒あたりの全体トークン数(処理量)」と「ユーザーごとのトークン数(速度)」のトレードオフ関係を紹介。応答速度を速めればユーザー数が制限され、ユーザー数を増やせば応答遅延が発生するというジレンマが浮き彫りとなっています。
これに対しNVIDIAは、ハードウェア強化によってこのトレードオフを打破する戦略を掲げました。新たに発表された「Blackwell」は従来の「Hopper」と比較して最大25倍の処理能力を持ち、質と量の両立を可能にします。
今後も堅調なAI関連データセンター投資
AIの利用フェーズが推論中心へと変化する中で、演算処理の需要は飛躍的に増加しています。NVIDIAは「Blackwell」に続き「Rubin」や「Feynman」など、さらに高性能なGPUの開発計画を明らかにしており、それらに対応したソフトウェア基盤としてDynamoも進化しています。
このような高密度・高性能なAI処理を支えるためには、分散型かつ大規模な計算環境が不可欠です。すなわち、AIエージェントや生成AIの拡大にともない、それを支えるインフラとしてのデータセンターへの投資は今後も堅調に推移すると見込まれます。
2025.04.22